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未来のことは誰にもわからない。
かけがえのない今日を
大切に生きよう。

個別指導の先生をやっていた大学生のころの僕。

そのときの教え子にY君がいた。

野球が大好きで礼儀正しく、よく笑ってくれる子だった。

僕が卒業した高校の付属中学に通っていた彼は教え子でもあり、後輩でもあったんだ。

 

そんなY君とは学校の話をよくした。

学食の新メニュー、語尾に必ず「~ね」をつけるF先生、僕が使えなかった新校舎……

休憩時間や授業後には、いろんなことを教えてくれた。

 

大学卒業後、僕は本格的に塾の先生としてがんばることにした。

個別指導はすべて他の先生にバトンタッチだ。

結果Y君を教えることもなくなり、いつしか塾で彼のことを見かけることもなくなった。

 

それから2年が経った12月のこと。

ほんとうに突然だった。

電話を受けた先生が言ったんだ。

「先生が教えていたY君、事故で亡くなったって!」

学校近くの道で自転車に乗っていたところを、大型トラックにまきこまれたという話だった。

 

近くのお寺で行われた告別式。

境内にはたくさんの同級生の姿があった。

 

晴れ渡った空。

お父さんの悲しみに満ちた声。

出棺を知らせる車のクラクション。

今でもはっきりと思い出せる。

 

Y君の時間は止まってしまった。

いくら勉強したいって思っても、もうできない。

僕もいくら教えたいって思っても、もうかなわない。

 

勉強したいだけ、勉強できる。

教えたいだけ、教えられる。

それがどれだけ幸せなことなのか、僕はこのとき初めて知った。

 

それからだ。

僕が「今、このとき」を強く意識するようになったのは。

君にも「ここぞ!」というときには全力を尽くしてほしい。

未来のことは誰にも分からない。

そんな僕らにできるのは、「今、このとき」に全力を尽くすことだけなんだ。

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