楽しさは苦労や努力の先にある。
江戸幕府を開いた徳川家康。彼は8歳のとき今川義元のもとに人質として送られた。
幼い家康をどう扱うか決める場で、藩主の今川義元は一言「むごい教育をしろ」と家臣に命じたんだ。
「むごい=つらい、ひどい」と思った家臣は、家康にとにかく厳しく接するようにした。
朝は日の出前に起こす。
粗末な食事をとらせたあとは、読み書きの勉強や武道の稽古(けいこ)を次々と。
もちろん休憩なんてほとんどなし。
日が沈むころ、家康は立ち上がることができないぐらい疲れ切っていた。
こんな「むごい教育」がしばらく続いたある日のこと。義元が家臣に尋ねた。
「どうだ、家康への『むごい教育』は順調か?」
もちろん家臣は自信を持って家康への厳しい仕打ちを伝える。
すると義元は大声で家臣を叱りつけた。
「バカもん!! そんなのは『むごい教育』とは言わん!」
ビックリしている家臣に、今度は諭すように語りかける。
「いいか、『むごい教育』とは思う存分に楽をさせるということだ。
朝はいつまでも寝かせておけ。
食事はうまいものをたらふく食べさせろ。
夏は涼しく、冬は暖かくしてやれ。
勉強も武道もやらせるな。
好きなことだけやらせてやればいい」
ますますわけがわからないという顔の家臣。
義元はうっすらと笑みを浮かべながら言う。
「そんな教育を子どものころから受けていれば、たいていの人間はダメになる。
そんなやつが藩主になってみろ。
だれも信頼などせぬわ。
そうすれば、やつの領地は勝手にわしのもとに転がり込んでくる。
な、『むごい教育』だろ?」
欲しいものは何でも与えられる。
イヤなことは一切やらずに、好きなことだけやっていればいい。
こんな楽な生活はないと思うよね。
けれど、これは自分をどんどんダメにしていく「むごい教育」だ。
そして自分の成長のないところに楽しさはない。
そもそも「楽」と「楽しい」は同じ漢字だけれど、意味はまったく違う。
元ブルーハーツのボーカル、甲本ヒロトさんはこう言っている。
「楽しいと楽は違うよ。
楽しいと楽は対極。
楽しいことがしたいんだったら、楽はしちゃダメだと思うよ。
楽しいことがやりたいと思った時点で、楽な道からはそれるんだよ」
――甲本ヒロト(ミュージシャン)
もしもゲームで最初から最強の武器と最強の仲間がそろっていたら。
最後のボスでさえも軽々倒せるレベルだったら。
楽だけど、まったく楽しくないよね。
経験値をコツコツためてレベルを上げたり、アイテムや仲間を集めたり、時には強敵に倒されたり。
そんな苦労があってこそ、楽しさは生まれるんだ。
勉強や受験にはタイヘンだったり辛かったりすることがたくさんある。
でも必死になってやることで見えてくる楽しさもある。
どうせやるんだったら、そこまでがんばってみよう。
成長、充実感、強み、理想、継続力……
楽では手に入らない、さまざまなものが手に入るはずだ。